「メタバース」「AI」の次にくる未来のワードとして注目されている「量子コンピュータ」とはなにか?暗号との密接な関係も交えて解説します。
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最近「メタバース」「AI」の次にくる未来のワードとして「量子コンピュータ」が注目されています。
「量子コンピュータでこんなことが可能になる」というのはチラホラ聞いたことがあると思いますが、「量子コンピュータとはなにか?」を説明できる人は少ないでしょう。
それは「量子」を説明できる方が少ないからです。
量子コンピュータは、「量子ビット」という0と1が重ね合わされて「状態が共存し観測するまで特定できない状態」の値を使って計算します。
科学好き・猫好きな方は「量子」といえば「猫のあの実験」を思いつく人が多いかもしれませんね。
1935年にオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレディンガーが発表した、猫を使った思考実験です。
実験では、私たち観察者からは箱が見えます。
箱には、1時間以内に50%の確率で崩壊する放射性原子とその放射性原子が崩壊すると致死性の毒ガスが放出される装置が設置されています。
この箱の中に猫を入れて1時間後に箱の中を見てみます。放射性原子が崩壊していれば猫は死んでいます。ただ猫の生死は私たちが確認するまではわかりません。
つまり私たちが確認するまでは、二つの可能性が同時に存在することの哲学的な例えとしてこの話はよく使われます。
この話は、量子学的にはコペンハーゲン解釈という考え方で理解するので、違った解釈になります。量子コンピュータの「量子ビット」の解釈は「確定していない変動幅のある値」という部分が肝になり・・・、これ以上は長くなるので、ここでは割愛させていただきますね。
この量子ビット(上記の例でいうと「生死が重なった猫」)を作る方法は、光子の偏光、超電導回路、イオン状態のエネルギー、電子のスピンなどを使うことができます。まだ実験室レベルで本格的な運用には設備などにもう一工夫が必要そうだな・・・と思わせるテクノロジーですね。
でも、だからこそ世界中のいろんな企業が商用化に乗り出そうとしているのです。
従来のコンピュータの演算は、プログラムに従って、記憶装置に記録されたデータをプロセッサ(CPU)で演算し、また記憶装置に書き戻し、値によっては分岐してさらにそれを繰り返す、という処理をして答えにたどり着いていました。将棋やオセロであれば全ての打てる手を数手先まで全部試して、最終系の評価点で最善手を探すというように。つまり力技での総当たりです。
力技での総当たりであるから、変化のパターンが多い計算(例えば天候予測・経路予測)などには莫大なプロセッサの数と時間を必要としていました。電力についてもしかりです。(※)
※語弊が無いように書き添えますが、従来型のコンピュータでもすべて網羅的に力技で計算しているわけでなく、プログラマーが工夫して最小効率で最適解を導くアルゴリズムを日夜考えてくれています。プロセッサメーカー(Intel/Arm/AMDなど)は少ない電力でより効率よく演算できるプロセッサを開発しています。けれど計算しなければいけないデータが日夜増えすぎているのです。
一方で量子コンピュータの本来の定義は、量子ビットという「複数の値をとり得る変数」を使って演算を行います。
従来型コンピュータが、変数でとり得る値を全パターン網羅的に演算することを考えたら、非常に効率が良さそうですよね。とはいえ、完全にどんな値でも取り得る変数として処理することは現在の技術では難しく、例えば日本の産業技術総合研究所では2030年に100万量子ビットの国産シリコン方式量子コンピュータを目指しているそうです。
ただし量子コンピュータは未だ発展中の技術で、実装方式も振れ幅が大きく、元来の意味での量子の特性を使った量子コンピュータは「量子ゲート型」といい、本格実用化には時間がかかりそうです。一方で量子コンピュータが得意とされる、組み合わせ最適化問題の計算に特化した「アニーリング型」は既に商用化されています。この「アニーリング型」は1998年に東京工業大学の西森教授が提唱されたものです。
「量子コンピュータとは何であるか」「従来型コンピュータとの考え方の違い」を書いてきましたが、利用者はそのようなものは気にしなくていいです。
ポイントは、量子コンピュータは、変数を含んだ式を複数提示して、そこから変数の値を導き出すことが得意な点です。それがどんなときに使われる計算かは、次章以降で書いていきます。
量子コンピュータは、従来型(ノイマン型)コンピュータを駆逐するものではありません。従来型コンピュータでは極端にコストがかかるタイプの演算の一部に量子コンピュータを使えば比較的簡単に解が出せるようになるのです。次章の得意産業分野を見れば、スパコン(スーパーコンピュータ)の出番は少し減るかもしれませんね。
向き不向きを数学的に表現すれば簡単です。
一方向の計算(四則演算・三角関数 etc. )は従来型(ノイマン型)が今のところ最適で、素因数分解は量子コンピュータが強いです。(※)
※どういう意味?
お題:6,887を素因数分解しなさい
従来型コンピュータ:素数で順繰り(2.3.5.7.11・・・)に割り算して割り切れる数字を探索する
量子コンピュータ:ショアのアルゴリズムで一回で答えが出る
余談ですが、最近「量子ドット」対応のテレビが広く購入可能になっていますが、残念ながら量子コンピュータの「量子ビット」とは関係ありません。でも「量子~」って言葉はなんだか未来的でワクワクしますね。
では、量子コンピュータは私たちにどんな未来をもたらしてくれるのでしょうか。
量子コンピュータと言えば『巡回セールスマン問題』。こういう複数条件を最適化した解を求めることを量子コンピュータは最も得意とし、従来型(ノイマン型)が力技でないと計算できない分野です。
「複数の訪問先と訪問先間の移動コスト(距離・時間)が与えられたとき、出発地を出て、全ての訪問先を1つずつ巡り出発地に戻る場合の巡回路の組み合わせの中で、総移動コストが最小の経路を求める」という組み合わせ最適化がお題です。
従来型のコンピュータでは全てのパターンを洗い出して計算して(まさに力技で)解くことが普通でした。その場合、パターンの数は訪問先をn社として(n-1)!/2通り(※)あります。訪問先が6社なら60通り、10社になると18万通り、30社になるとなんと「442穰880𥝱9968垓6985京」という途方もないパターンの数に。スパコンでも計算には数百万年以上必要だそうです。
量子コンピュータは「複数パターンの初期値から最適解を求める」ことに特化しているコンピュータであるためこういう演算の結果を出すのが格段に速くなります。
ただし、先述した量子アニーリング型の量子コンピュータでは、この巡回セールスマン問題が解けるのか解けないかは議論があるようです。
※数式の「!」は階乗です。5!ならば5*4*3*2*1
このように複数要素が組み合わさった中で、最適解を求めるというテーマでは、量子コンピュータが活躍します。
AIと組み合わせて、信号の最適化、一般道での自律無人走行、巨大なターミナル空港での航空管制など、旅行や輸送に利用すると大きな恩恵があるでしょう。
量子コンピュータを活用すると、最適な交通ルートでの配送を算出し、無人運行を可能にし、都市の道路渋滞を緩和し、貨物をより早く届けることができるようになるため、今も逼迫し悪化を続ける運送業界に革命的影響をもたらすかもしれませんね。物流企業にとっては、これらの革新は、問題の解消と大きな利益増をもたらすのではないでしょうか。
多くで言われているのは、短期的には金融分野が量子コンピュータからより大きな恩恵を受けるのではないかということです。
金融分野での量子コンピューティングのメリットは、従来は変動要素が多すぎて計算できないため、経験者の勘や目利きによって行われてきた投機的な金融市場等への投資について、根拠あるシミュレーションによる予測として実施可能になることです。
投資家は、様々なシナリオを想定した、正確なリスク評価を求める場合が多くなっていますが、量子コンピュータはそれらに対応することができるでしょう。
負債や資産のポートフォリオを計算する際にも、量子コンピュータはより正確な信用度の高い計算過程と計算結果を提供し、より良い投資・融資・投機の判断を可能にします。これは生成型AIと合わせて相乗効果を金融の世界にもたらすのではないでしょうか。
金融へのメリットを書いてきましたが、課題(不安)もあります。仮想通貨への影響です。仮想通貨の影響は次章で説明します。
天候の予測もまた複数の要素から最適解を得る演算であり量子コンピュータの得意分野です。天候の予測が改善されることで、観光・アミューズメントや輸送、農業など、天候に依存する多くの産業に影響を与え、非常にビジネスの効率を高めると思われます。また、天候の予測の精度やスピードが上がれば、災害に備えるための時間を確保することもできますね。
化学製品や医薬品は無数の分子の組み合わせです。量子コンピュータによって、分子設計などのシミュレーションを高速に実行できます。
得られた多くのシミュレーションデータから、今隆盛を極めつつある生成型AIを通してより洗練された正解に近い解答が得られ、そこから動物実験や人への治験などに進めば、より高速により安全に開発は進み、人間の暮らしがより豊かになる。
ちょっと未来的ではありますが、現実感のある近い未来の姿ではないでしょうか。
上記のように量子コンピュータは多くの革新的効果をもたらします。従来型のコンピュータの技術、そして今急激に進化している生成型AI。これらの今便利に使えているものはそのままに、もっとうまく(効率よく)使いたい分野で進化を加速するでしょうし、今私たちが想像する範囲を超えたシナジーによる劇的な進化もあるのではないでしょうか。
みなさんも身の回りにある「面倒なもの」をITに置き換える事を想像してみてください、それは必ず実現されます。そしてその先の「まったく想像できないもの」が未来に起こることなのです。
量子コンピュータは上記のような恩恵がありますが、良いことばかりでもありません。
もっとも悪い影響が大きいと考えられているのが、現在普及している暗号化技術を無力化することです。
法人向け電子証明書の世界最大手、デジサート社の調査 では『ITプロフェッショナルの71%が、量子コンピューティングが暗号化に与える脅威を知っている』ということですので、もはや一部の方の問題というわけではなくなっています。
なぜなら、ITセキュリティという範囲だけでなく、金融や国防といった社会基盤への脅威となる問題だからです。
いまさら改めて説明するほどでもないのですが、現在、暗号化技術は意識するしないに関わらず、いろんなところで使われています。
暗号資産とも呼ばれるように仮想通貨は暗号化技術とブロックチェーン技術によって成立します。ここでの暗号化は、難読化や送信者と受信屋の認証ではなく「履歴を改ざんされていない」保証としての意義を持っています。
もちろん仮想通貨の開発を行っている方たちもこの問題は認識していて、量子コンピュータ対策を実装済みだったり、設計中の仮想通貨はあります。ただ今は仮想通貨の種類が増え、既存の通貨のロジックを勝手にフォークして、独自の通貨で上場しようとする企業もあるようです。果たしてその仮想通貨は量子コンピュータの世界で生き残れるでしょうか。
過去に相場を操作しようとして流された「2026年ビットコイン暴落説」もこの不安につけこんで流された誤った情報です。
在宅ワークが急速に普及した昨今、自宅と会社の通信にVPN(仮想プライベートネットワーク)を使われている方は多いでしょう。また企業の拠点間の通信にも使われていると思います。このVPN通信の多くが従来の暗号化技術の「暗号鍵の保有者の認証」と「暗号アルゴリズムによる難読化」がセキュリティの担保要因です。この暗号化通信にセキュリティ上の脅威が明確であるとワークスタイルから見直さないといけなくなりますね。
無線LANでも暗号化技術は利用されています。元々は有線LANのプロトコルをそのまま無線化したものでしたが、そのままでは誰でも傍受可能なためシンプルな固定の暗号鍵で暗号化するWEP(Wired Equivalent Privacy)が作られました。ただWEPは第三者による傍受解読が簡単で、パケットに改ざん可能な脆弱性があるなどセキュリティ的な問題が多く、現在はWPA2という暗号化方式が採用されていることが多いです。
Free Wi-Fiでは未だWEPが使われていることもありますので注意しましょう。またご家庭やモバイルルーターを設定するときも、極力WEPは設定しないことをオススメします。
現在普及しているWPA2もいくつかの攻撃手法があり、そもそもシンプルな辞書攻撃で突破できてしまうので、Wi-Fiでの通信暗号化は、次項のHTTPSと組み合わせて使うことで強化は可能です。
HTTPSは「Hypertext Transfer Protocol Secure」の略で、従来のWWW(World Wide Web)の通信プロトコルである「HTTP」をセキュア化したものです。ブラウザのURL欄にある鍵マークがついている場合、サーバーとブラウザの間で暗号化通信をしていることになります。このHTTPSは、日本では約5年前は普及率30%未満だったのが、2023年現在では90%以上のWebサイトで採用されています。
HTTPS通信でない場合、すべての通信データがインターネット上を平文で流れます。上記のWi-Fiで無線LANを暗号化しても無線ルーターより先は平文となってしまいます。
経路で知らない人に通信内容を盗み見られるのは、身近な人に見られるよりもちょっと怖いですね。
今でも一部の国では全ての通信内容が監視されているそうですし、かつてはアメリカでも「スノーデン事件」という有名な国家による情報収集事件がありました。
サーバー内を法治国家の法によって見られるのは仕方がないことかもしれませんが、インターネットの経路中で第三者に盗み見られることはせめて防ぎましょう、というのがHTTPSです。
このHTTPS通信のパケットも量子コンピュータが身近になると安全とは言えなくなります。
HTTPS通信の鍵交換は後述するTLSハンドシェイクという仕組みを使います。この仕組みを他の通信(ファイル送信・メール送信・メール受信)にも適用したのがFTPS・SMTPS・IMAPSになります。
「耐量子計算機暗号」とは、PQC(Post-quantum cryptography)という用語が生まれ、これに対応する適切な日本語がまだ定義されていないため、漢字ばかりで表されています。英語をそのまま日本語にすると「量子対応暗号」、意訳すると「量子コンピュータ時代の暗号」というような言葉になります。
量子コンピュータが従来の暗号を攻略してしまうのは時間の問題なので、量子コンピュータに簡単に解かれない暗号を作ろうというムーブメントです。
暗号は自分が通信をしたい相手以外に通信を見られないようにするために進化してきました。
まずは暗号化技術の歴史から紐解いてみましょう。
現存する最古の暗号は、紀元前 3000 年頃の石碑に描かれているヒエログリフ(古代エジプトで使われた象形文字)であるとされています。
紀元前 6 世紀頃、古代ギリシャの都市国家・スパルタでは「スキュタレー暗号」が用いられました。この方式では、あらかじめある太さの棒(これがスキュタレーと呼ばれるものです)を持った暗号文の送り手がその棒に革紐を巻きつけて棒に沿って文字を書き、その革紐だけを受け手に送るというものです。(共通鍵暗号のはしりですね)
今もクイズや子供の遊びなどで登場する、文字ずらし(※)をして暗号化する方法です。難読化は可能ですが「暗号化してある」と言われたらまず試したくなるので、特定の人にだけ解読してほしい・・・というときには向きません。
※あ→う、い→え、か→く
こんにちは→しいねてふ
文字ずらし等、1文字ずつ特定のルールで文字を置き換える方法(単一換字式)ですと、そのルールの共有が大変です。また、言語学的解釈や統計学的解析から、簡単に解読することができます。(アルファベットは26文字しかないため)。そこで16世紀頃には、文字(アルファベットや50音)を縦横の表に埋めた後、表の行と列に識別子をつけその識別子を鍵とする暗号が発明されました。表だけ共有して、本文と鍵を送る暗号化通信です。いよいよ現代に近づいてきました。上杉暗号というのは上杉謙信の軍師宇佐美定行の兵法書に記載があったことからそう呼ばれているようです。いくら軍師が自分の頭の良さを誇るためとはいえ書籍にネタバレを書いてしまうのは、少々うかつな気がしますね。
第二次世界大戦中のドイツで使われた暗号。上記の表を使った鍵暗号の鍵を1文字ずつ変更していく上に、変換の表自体も任意に変更していくという仕組みをタイプライターに組み込んだもので、非常に強固でかつ簡単に暗号文を作成可能でした。しかし連合国(イギリス)に解読方法を発見され、しかも解読できた事実も秘密にされたためドイツはエニグマを使い続け、いろんな作戦や極秘情報が連合国に筒抜けになりました。
ちなみにこのエニグマを解読する機械「ボンベ」を開発したのはアラン・チューリングという数学者でした。彼はチューリングマシンを発明し、従来型コンピュータの基礎理論を作り出し『コンピュータの父』と呼ばれています。また彼はチューリングテストというコンピュータと知能に関する実験も提唱しています(今から70年以上も前に)。歴史的にも技術的にも、私たちの「今」はこのアラン・チューリングという偉人抜きでは到達できていなかったでしょう。
アラン・チューリングとエニグマについては映画(※)にもなっていますので興味を持たれた方はぜひご覧になってください。
※「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2014)
Data Encryption Standardの略でその名の通り1976年に標準化された暗号化アルゴリズムです。ここからはアルゴリズムが公開され、アルゴリズム自体の脆弱性を高めること、鍵の受け渡しをどうするかが、暗号技術の進化となっていきます。とはいえ、まだまだコンピューティングは普及していない時代なのでそう差し迫ったテーマではありませんでした。
鍵の受け渡しの問題の大きな転換ポイントです。1976年に、ネットワークコンピューティングの時代を予想し、ホイットフィールド・ディフィー、マーティン・ヘルマン、ラルフ・マークルが全米コンピュータ会議において発表しました。非対称な鍵(公開鍵、秘密鍵)を用いれば事前に鍵を配送することなく暗号化通信ができる、というものです。PKI(Public Key Infrastructure)とも呼ばれます。
「暗号鍵のやり取りはどうするの?」「あ、PKIです。」という会話で通じるくらい、広く利用されています。
現在のインターネット通信(TCP)ではTLSハンドシェイクという形で行われています。現在も使われている技術のため、簡単に説明します。以下の図はTLS1.2以前の手順です。最新のTLS1.3ではより安全でより高速な手順でできるよう改善されています。
公開鍵暗号方式の発明で鍵の受け渡しについての問題は解決しました。ところが1976年時点では暗号化アルゴリズムが追いついていなくて、暗号化と複合で異なる鍵を使うという非対称な暗号実装がありませんでした。1977年にRSA暗号が開発されました。発明したロナルド・リベスト、アディ・シャミア、レオナルド・エーデルマンそれぞれのイニシャル(Rivest、Shamir、Adleman)から作られた RSA暗号です。
RSA暗号は素因数分解をもとに作られています。『素因数分解!?』そうです。本コラム1章で「量子コンピュータは素因数分解が得意」と書きましたので伏線回収です。
以上のように、暗号は「より解かれづらい暗号アルゴリズムへの進化」と「鍵の受け渡しの工夫」の歴史でできています。
量子コンピュータは、アルゴリズムがどうであろうが鍵をどう管理しようが「組み合わせから最適解を導き出す」というこれまでのルールを破壊するやり方で暗号を無効化するのです。
もちろん量子コンピュータに解かれにくい暗号というものも開発されています。それがこの章のタイトルでもある耐量子計算機暗号(PQC)です。
暗号化は、ただ難読化のためだけではありません。通信する双方の認証(正しい鍵を持つことで相互の信頼を担保)やデータの完全性(データが破損や改ざんされていないことを担保)のためのものでもあります。暗号に対する脆弱性や脅威はその大前提を破壊するものです。
ですから量子コンピュータが普及し、現在の暗号化技術が無効化される前に対応が必要です。つまり、現在の暗号化基盤上で構築された仕組みはむこう20年くらいをかけてPQCに対応したものに刷新していかないといけないのです。ちょっとゾッとする話ですが、避けて通れない話です。証明書のプロ、証明書・認証管理を生業とする人たちがいかにスムーズに切り替えるかを今も考えてくれています。
さて最後に、そもそもなぜ、IDCフロンティアがこんな記事を書いているのかにつながります。
じつは量子コンピュータは、パソコンのようにお手軽に1人1台持てるような未来は描かれていません。量子コンピュータは「量子ゲート型」にしても(お手軽で用途限定型の)「量子アニーリング型」にしても、それ相応のコストと設備が必要になります。現代の技術では持ち運ぶどころか、オフィスに1台設置することも困難です。
量子コンピュータの核ともいえる「量子ビット」が現在はものすごく外的要因を受けやすく、設置する環境がシビアだからです。冒頭の猫の箱を普通の空間においたら猫が大ピンチですから。
またその計算も日常的に使うものではなく、その用途に応じた機会での利用に限られます(少なくとも現状は)。現実的にはクラウドサービスを使うか、所有する機材をデータセンターにホストして使うということになるでしょう。
いつかIDCフロンティアが、みなさまに量子コンピュータをより身近に使えるインフラサービスとして、ご提供できる日もそう遠くはないでしょう。
【参考文献】
DigiCert, Inc., 2021年3月12日, 量子コンピューティングが社会に与える影響
【商標表記】
・Intelはアメリカ合衆国およびその他の国におけるインテルコーポレーションまたはその子会社の商標または登録商標です。
・ARMは、ARM Limitedの登録商標です。
・AMDはAdvanced Micro Devices,Incの商標です。
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